近年、美容医療の分野では、さまざまな注入系の施術が行われており、なかでも「PRP+bFGF」は多くの方が耳にしたことのある施術かもしれません。
ところが、この施術をめぐってはしこりの発生などのトラブルが報告されており、実際に裁判事例にもなっています。
本記事では、こうしたリスクや2025年に行われた調停事例をもとに、「PRP+bFGF」に関心をお持ちの方へ広く知っていただきたい情報をまとめました。
PRP+bFGFとは
ここでは、いわゆる「シワ改善」を目指す方が検討する施術の一つとして語られる「PRP+bFGF」について、簡単に概要をお話しします。
基本的な仕組み
「PRP+bFGF」は、多血小板血漿(PRP)にヒト塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)と呼ばれる成分を加えたものを、気になる部位へ注入するという流れで行われます。
クリニックによっては、「プレミアムPRP皮膚再生療法」と呼ばれています。
名称に含まれる語句が示すとおり、皮膚のケアを目指して考えられた方法という位置づけですが、後ほど触れるようにしこりが問題となりやすいリスクがあります。
そもそもPRPは、血小板が含まれる血漿を指しています。
bFGFは、細胞の働きに関連するタンパク質の一種とされ、施術ではこの2つを混合して用いられることがあるようです。
ただし、日本の美容医療ガイドラインでは、bFGFを安易に加える方法については慎重な姿勢が示されており、リスク説明や記録の取り扱い方が注目されています。
幅広いクリニックでの紹介
この施術は、一部の美容クリニックで紹介されることがあります。
同じPRPを用いた施術でも名称の違いや注入量の違いなど、クリニックによってアプローチが変わる場合があるといわれています。
さらに、bFGFの濃度や配合量をどのように設定するかの判断基準は、施設により大きく異なるようです。
「PRP+bFGF」施術のリスクと経緯
「シワ」をケアしたい方のなかには、ヒアルロン酸だけでなく、こうしたPRPを用いた方法にも関心をもつ場合がありますが、しこりの発生など、施術後に起こるトラブルの問題は看過できません。
ここでは、多くの方が気にされるリスクを中心に、どのような問題が指摘されてきたのかをお話しします。
しこりが発生しやすいとされる背景
「PRP+bFGF」は、bFGFという成分が組み合わさることで、注入した部位が過度にふくらむ現象が起こりやすいと考えられています。
そのため、注入位置や量が適切にコントロールされないと、しこりや硬結が持続してしまうケースがあるのです。
施術直後だけでなく、数か月から数年経過した後に症状として現れる場合があるという報告も見受けられます。
日本の美容医療ガイドラインでの位置づけ
日本の美容医療においては、厚生労働省の方針や学会が示すガイドラインが存在します。
その中には、「bFGFを追加した形でのPRP注入は推奨できない」というような慎重な判断が示されることがあります。
実際に、ガイドラインが「行わないよう弱く推奨する」といった形で明確に指摘している事例があるため、多くのクリニックでは取り扱いを控えている場合もあるようです。
「プレミアムPRP皮膚再生療法」の名称による混乱
「プレミアムPRP皮膚再生療法」という名称を耳にすると、一部の方は新しい手段として注目されるかもしれません。
しかし、この呼称は必ずしも医学的な評価を得たうえで統一されているわけではなく、独自のブランディング名である場合もあるようです。
名称から受けるイメージと実際の危険性が必ずしも一致しない点に注意が必要でしょう。
施術費や追加費用の問題
また、この施術にかかる費用はクリニックごとに異なります。
施術後に万一しこりができてしまった場合、後日別の医療機関で追加処置を検討する可能性も出てきます。
その場合の費用がどの程度かかるのか、事前に分からないこともしばしばです。
そのため、費用面とリスクの両方を把握することが大切とされます。
実際の裁判事例:2025年の調停内容
ここでは、2025年に東京地方裁判所で行われた調停の内容と争点についてまとめます。
しこりが問題となった事例は、美容医療関連の紛争のなかでも注目を集め、業界全体に対しさまざまな影響を及ぼしました。
調停の背景と主要な争点
「PRP+bFGF」の施術を受けた患者が、施術後にしこりと思われる症状を訴え、クリニック側を相手に法的措置へと進みました。
争点となったのは以下のような点です。
- 事前のリスク説明が十分であったか
- 薬剤(bFGF)添加に関する説明の有無
- しこり発生後の対応と、説明の不備
施術を受ける際、カウンセリングなどで説明を受けるケースが多いですが、今回は説明義務がどの程度まで求められるかが大きな論点となりました。
医療ガイドラインとの関連
この調停では、医療ガイドラインに関する議論も行われました。
裁判所は業界の推薦基準を参照し、bFGFを用いる際には相応のリスク説明が不可欠であると指摘しています。
施術名が変わっていたとしても、本質的な手技内容や注入する成分に変わりがないのであれば、ガイドラインに沿った説明義務が果たされるべきだとの考え方が示されました。
調停結果とクリニック側の責任
2025年1月、東京地方裁判所での調停では、クリニック側が解決金を支払い、施術に要した費用の返還と、後続の処置にかかった費用を一部負担するという形で合意に至りました。
裁判官は、リスクの説明と薬剤添加に関する詳細な案内が不十分だったと判断しました。
一方で、患者側についても施術過程での理解をもう少し深める余地があったとされ、全面的にクリニックだけが悪いという結論にはなりませんでした。
施術前の説明義務と業界ガイドライン
この章では、美容医療における説明義務の大切さと、ガイドラインが示す考え方を確認します。
施術を行う側と受ける側の双方に必要な姿勢が、調停であらためて浮き彫りになりました。
医療ガイドラインが求める説明内容
多くの医療ガイドラインでは、美容医療に限らず、以下のような説明を行うよう求めています。
- 施術の目的・概要
- メリットとデメリット
- 考えられるトラブル・リスク
- 施術後の経過やアフターサポート
「PRP+bFGF」のように、注入系のアプローチでは、しこりや硬結などが起こりやすい可能性があるため、事前に十分な書類や口頭説明を行うことが強く求められています。
カウンセリングの重要性
美容医療では、施術前にカウンセリングを実施するクリニックが多いです。
しかし、時間的制約やスタッフの説明不足などによって、利用者が深く納得しないまま手続きを進めてしまうケースがあります。
クリニック側はガイドラインを守り、利用者側も疑問点は率直に質問するなど、双方の協力が不可欠と思われます。
同意書やチェックリストの整備
説明義務を履行するうえで、同意書や説明内容をまとめたチェックリストは有効な手段といえます。
文字情報として残しておくことで、「言った・言わない」のすれ違いを最小限に抑えられるでしょう。
今回の調停事例を受け、今後はさらに同意取得の厳格化が求められるのではないか、という見方もあります。
しこり発生トラブル:原因と考えられる要素
ここでは、実際に問題となるしこりがなぜ生じやすいのか、考えられる主な要素を整理します。
施術後に起きる不具合を事前に把握しておくと、いざというときの対応にも役立ちます。
注入量や部位の選択
まず、bFGFをどの程度加えるか、どの部位に注入するかといった技術面の問題があります。
bFGFは、ごくわずかな量でも部位によっては隆起を生じやすいとされ、慎重なコントロールが欠かせないといわれています。
施術者の経験や知識がものをいう場面といえるでしょう。
個人差による影響
また、しこりの発生には個人差もあります。
人によっては体質的に注入部位が硬くなりやすかったり、腫れやすかったりすることがあるようです。
カウンセリング時に自分の体質や既往歴を正確に伝えることで、不要なリスクを避ける一助となる可能性があります。
アフターケアの重要性
施術後のアフターケアが整っていないと、しこりの発生リスクが高まるともいわれています。
もしトラブルが起きた場合、とくに数か月から数年後に違和感が出始めたときは、早めに医療機関へ相談することが大切です。
放置してしまうと症状が長引く可能性があります。
まとめ
2025年の調停事例を通じて、「PRP+bFGF」施術後にしこりが生じやすいリスクや、その説明義務の重要性があらためてクローズアップされました。
美容医療に関心を寄せる方にとっては、リスク情報やガイドラインの動向を知ることが今後ますます大切になるでしょう。
- 「PRP+bFGF」は多血小板血漿にbFGFを加えて行う注入方法である
- しこり発生などのトラブルが裁判事例として注目を集めた
- 日本の美容医療ガイドラインでは慎重な立場が示されている
- 施術前の丁寧なカウンセリングとリスク説明が欠かせない
- 業界全体で説明義務強化やガイドライン策定が進められる見通し
ご自身で情報を収集し、必要に応じて医療機関や専門家に相談することが大切です。
もし「PRP+bFGF」施術後にしこりが気になる方は、一度クリニックへ相談してみましょう。