ベーチェット病という名前を聞いたことはあっても、「どんな症状が出る病気なのか」は意外と知られていません。口内炎や目の不調、皮膚トラブルなど、一見すると関係なさそうな症状が重なるため、体調不良として見過ごされてしまうこともあります。
しかしベーチェット病は、全身に起こる炎症によって、さまざまな症状が現れる病気です。この記事では、症状を中心に、その特徴を解説していきます。
ベーチェット病とは
ベーチェット病は、免疫の異常によって全身の血管に炎症が起こる病気です。
血管は体のあらゆる場所に張り巡らされているため、炎症が起こる部位によって、口・皮膚・目・関節などに、さまざまな症状が現れます。
この病気の名前は、トルコの皮膚科医フルシ・ベーチェットに由来しています。
ベーチェット医師は、繰り返す口内炎、外陰部の潰瘍、目の炎症といった一見バラバラに見える症状が、実は同じ病気として起こっているということに気づきました。
当時はそれぞれ別の病気として考えられていたため、この発見はとても画期的であり、発見者の名前を取ってベーチェット病と名付けられました。
ベーチェット病は、世界中どこでも起こる病気ですが、
特に多い地域があります。
それが、トルコから中東、中央アジア、中国、そして日本へと続くシルクロード沿いの地域です。
このため、ベーチェット病は
「シルクロード病」と呼ばれることもあります。
シルクロード沿いに多いと聞くと、
「感染症なのでは?」
「交易によって人から人にうつっていたのでは?」
と不安に感じる方もいるかもしれません。
結論から言うと、
ベーチェット病は感染症ではなく、人にうつる病気ではありません。
かつてベーチェット病が感染症のように考えられていた理由には、
- 特定の地域に患者が集中している
- 炎症を起こす症状が多い
- 口や皮膚など、外から見える症状が目立つ
といった背景がありました。
そのため、
「何かの病原体が人の移動とともに広がったのではないか」
と考えられていた時代があったのです。
現在では研究が進み、
ベーチェット病は感染症ではないことが分かっています。
また、シルクロード沿いに患者が多い理由としては、HLA-B51の保有率を含む”なりやすい体質”を持つ人が多い地域がたまたま多かったためだと考えられています。
HLA-B51は、免疫反応に関わる「白血球の血液型」のようなもので、ベーチェット病の発症リスクを高める遺伝的要因の一つとして知られています。日本人ではHLA-B51を持つ人が15〜20%いる一方で、ベーチェット病患者の約60%がこの型を持つため、病気との関連が非常に強いですが、HLA-B51が陽性だからといって必ず発症するわけではありません。
このHLA-B51は、シルクロード沿いの地域の人々に比較的多くみられます。
この分布の特徴から、現在ではベーチェット病は環境よりも体質や免疫の反応の違いを軸に考えられる病気だと理解されています。
ここで重要なのは、
細菌やウイルスが「原因そのもの」ではないという点です。
あくまで、
なりやすい体質を持つ人の免疫が、何かをきっかけに過剰に反応する
その結果として起こる病気だと考えられています。
ベーチェット病の主な症状
ベーチェット病の症状には、
「これが出たら必ずベーチェット病」という決まった形がなく、血管の炎症が起こった場所によって異なるのが大きな特徴です。
そのため、同じ病気なのに、人によって症状が全く違うと感じられることも少なくありません。
さらに、いくつかの症状が組み合わさ、繰り返し現れるという特徴があります。
また、すべての症状が同時に出るとは限らず、時間差で現れることも少なくありません。
1. 何度もできる口内炎(再発性口腔内アフタ)
もっとも多く、最初に気づかれやすい症状です。
- 白っぽくて強く痛む
- 一度にいくつもできる
- 治っても、またすぐできる
「疲れているだけ」「ストレスのせい」と思われやすいですが、
頻度が多い・長く続く場合は注意が必要です。
普通の口内炎との違い
口内炎は誰にでもできるものですが、
ベーチェット病による口内炎には特徴があります。
大きな違いは「頻度」と「しつこさ」です。
- 治ったと思っても、すぐ次ができる
- 一度に複数できることが多い
- ほぼ常にどこかに口内炎がある状態が続く
一般的な口内炎は、
生活を整えることで自然に治り、しばらく再発しないことがほとんどです。
一方、ベーチェット病では、
体調が回復しても口内炎だけが繰り返し現れるという点が大きな違いになります。
白っぽい口内炎はアフタ性口内炎?
白っぽく、周りが赤く、触ると痛い、タコの吸盤のようにも見える口内炎は、
アフタ性口内炎と呼ばれるタイプです。
実は、ベーチェット病でみられる口内炎も、見た目はアフタ性口内炎とほぼ同じです。
重要なのは見た目ではなく、でき方や繰り返し方です。
「一度にいくつできたか」よりも、同時に複数できる状態が何度も繰り返されることがある場合、また、治る前に次が現れる場合は注意が必要であり、体の中で続く炎症が関係している可能性も考えられます。
2. 皮膚に出る症状
皮膚は免疫の最前線であり、細菌・ウイルス・摩擦や傷などから体を守るため、炎症が表に出やすい箇所です。
- ニキビのような赤い発疹
- 押すと痛い赤いしこり(結節性紅斑)
- 虫刺されのように腫れる
見た目がよくある皮膚トラブルに似ているため、
病気と結びつきにくいのが特徴です。
3. 目の異常(ぶどう膜炎など)
目の中、特に網膜やぶどう膜には、細い血管が密集しているため少しの炎症でも影響が出やすいという特徴があります。目の症状は、日常生活への影響が大きくなりやすいため、特に注意が必要です。
- 目が充血する
- かすんで見える
- まぶしさを強く感じる
- 飛蚊症(黒い点や糸状ものが視界に入る)
放置すると視力に影響することもあるため、
早めの受診が大切になります。
4. デリケートな部位の潰瘍
外陰部に、口内炎に似た潰瘍ができることがあります。
- 強い痛みを伴う
- 治っても跡が残りやすい
人に相談しづらく、
我慢してしまう方が多い症状の一つです。
5. 関節の痛みや体のだるさ
ベーチェット病では、体全体に炎症が起こるため、
- 関節が痛む
- 体が重だるい
- 微熱が続く
といった、はっきりしない不調として現れることもあります。
6. 腸・消化管の症状
ベーチェット病では、腸の血管に炎症が起こることで、消化管にさまざまな症状が現れることがあります。
腸は全身の中でも特に血管が豊富な臓器のため、炎症の影響を受けやすい部位のひとつです。
主にみられる症状には、次のようなものがあります。
- 慢性的な腹痛
- 下痢を繰り返す
- 血便
- 食後に強まる腹部の不快感
これらの症状は、腸の粘膜に潰瘍(ただれ)ができることで起こります。
特に回盲部(小腸と大腸のつなぎ目)に潰瘍ができやすいことが知られています。
腸管型ベーチェット病とは
ベーチェット病の中には、腸や消化管の症状が目立つタイプがあり、これを腸管型ベーチェット病と呼びます。
すべてのベーチェット病患者に腸の症状が出るわけではありませんが、
腸の不調が主な症状として現れるケースもあります。
腸管型ベーチェット病では、腸の血管に炎症が起こることで、
腸の粘膜に潰瘍(ただれ)ができやすくなることが特徴です。
そのため、症状の経過が潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患と似て見えることがあり、
最初は別の腸の病気として経過観察されることも少なくありません。
ただし、腸の症状だけで判断するのではなく、
口内炎・皮膚症状・目の異常など、他のベーチェット病の症状とあわせて考えることが、腸管型ベーチェット病を理解するうえで重要になります。
腸管型ベーチェット病は、単なる「お腹の病気」ではなく、
全身に起こる炎症が、腸に強く現れている状態と考えられています。
また、腸の炎症が続くことで、
- 栄養の吸収がうまくいかなくなる
- 体重減少や倦怠感が強くなる
- 貧血を起こしやすくなる
といった全身症状につながる影響が現れることもあります。
「お腹の症状だけの問題」に見えて、実は体全体の調子に深く関わっている点が特徴です。
さらに腸は、免疫細胞が集まる「免疫の要」となる場所でもあります。
腸の炎症は、免疫のバランスそのものを乱し、口・皮膚・目といったほかの症状を悪化させる引き金になることもあります。
このことから、ベーチェット病における腸の症状は、単なる合併症ではなく、病気全体の活動性を左右する重要なサインと考えられています。
これらの症状は、すべてが同時に出るわけではありません。
症状が出る時期と落ち着く時期を繰り返すため、
ひとつひとつは軽そうに見えても、全体で見ると病気だったというケースが少なくありません。
このような症状の背景には、
体の中で続く炎症と免疫の異常が関係していると考えられています。
ベーチェット病の症状をどう捉えるか
ベーチェット病の症状は、口内炎や目の不調、皮膚トラブル、関節の痛み、腸の不調など、実にさまざまです。そのため、「いろいろな不調が同時に起きているだけなのでは」と感じてしまうこともあります。
実際に、ひとつひとつの症状だけを見ると、どれもよくある体のトラブルに見えるかもしれません。けれど、それらが繰り返し起こる、場所を変えて現れるようであれば、体の中で同じ仕組みが関わっている可能性があります。
ベーチェット病では、全身の血管に炎症が起こることで、
- 口では口内炎として
- 目では見え方の変化として
- 皮膚では発疹や痛みとして
- 腸では腹痛や下痢として
症状がそれぞれ違うかたちで現れます。
また、症状はずっと同じ場所に出続けるとは限りません。しばらく落ち着いていた症状が再び現れたり、別の部位に不調が移ったように感じられたりすることもあります。こうした変化は、決して珍しいものではありません。
「前と違う症状が出てきた」「良くなったと思ったのに、また別の不調が出た」と感じると、不安になるのは自然なことです。ですが、それは体が発している大切なサインでもあります。
ベーチェット病を理解するうえで大切なのは、症状をひとつずつ切り離して考えるのではなく、「どんな症状が、どんな順番で現れてきたか」に目を向けることです。症状のつながりに気づくことで、体の状態をより正確に捉えやすくなります。
症状を知ることは、怖がるためではなく、体と向き合うための手がかりです。ベーチェット病は、症状の特徴を理解することで、必要な対応につながりやすくなる病気だといえます。
ベーチェット病の診断が難しい理由
ベーチェット病は、症状の特徴を知っていても、診断にたどり着くまで時間がかかることがあります。
それは、この病気が「分かりにくい条件」をいくつも持っているためです。
1. 症状が同時にそろうとは限らない
ベーチェット病の症状は、口・皮膚・目・関節・腸など、さまざまな場所に現れますが、
すべてが同時に出るとは限らず、時間差で現れることが少なくありません。
たとえば、最初は口内炎だけだった方が、
しばらくしてから目や皮膚の症状が加わる、ということもあります。
その結果、受診のたびに「別々の症状」として扱われやすく、
一つの病気として結びつきにくいのです。
2. ひとつひとつの症状が「よくある不調」に見える
ベーチェット病の症状は、
- 口内炎
- 皮膚の発疹
- 目の充血
- 関節の痛み
- 腹痛や下痢
など、日常的によく見られる不調に似ています。
そのため、単発で見ると「疲れ」「ストレス」「体質」などで受け取られやすく、
“繰り返している”という重要な特徴が見落とされることがあります。
3. 受診する診療科が分かれやすい
症状が出る場所によって、受診先が分かれやすいのも特徴です。
- 口内炎:歯科・口腔外科
- 皮膚症状:皮膚科
- 目の症状:眼科
- 関節の痛み:整形外科
- 腹痛や下痢:消化器内科
それぞれの科では適切に診てもらえていても、
症状が一つにつながらないまま時間が経つことがあります。
4. 検査だけで確定できる病気ではない
ベーチェット病は、血液検査や画像検査だけで「これで確定」と言える病気ではありません。
HLA-B51は発症との関連が知られていますが、
陽性だから発症する、陰性だから否定できるというものではありません。
そのため、診断では症状の組み合わせや、これまでの経過がとても重視されます。
こうした背景から、ベーチェット病では、
症状そのものだけでなく、「どんな順番で、どれくらい繰り返してきたか」を振り返ることが、理解への大きな手がかりになります。
まとめ
ベーチェット病の症状は、ひとつひとつを見ると軽く見えてしまうことがあります。
そのため、「もう少し様子を見よう」「そのうち治るかもしれない」と感じるのは、ごく自然なことです。
ただ、受診のタイミングを考えるうえで大切なのは、
症状の強さよりも、「繰り返し方」や「組み合わせ」です。
たとえば、
- 口内炎が何度も繰り返しできている
- 皮膚・目・関節・腸など、場所を変えて不調が続いている
- 治ったと思っても、しばらくすると別の症状が出てくる
このような経過がある場合、
それぞれが偶然ではなく、同じ背景で起きている可能性も考えられます。
また、ベーチェット病では、症状がそろってから初めて受診する必要はありません。
「いま出ている症状」と「これまでに繰り返してきた症状」をあわせて伝えることが、診断の手がかりになります。
受診する際は、
- いつ頃から症状が出ているか
- どの症状が、どの順番で現れたか
- どれくらいの頻度で繰り返しているか
を思い出せる範囲で整理しておくと、
医師に状況が伝わりやすくなります。
症状が軽いうちに相談することは、決して大げさなことではありません。
「何かおかしいかもしれない」と感じた時点が、受診を考えるひとつのタイミングです。
ベーチェット病は、症状を知り、これまでの経過に目を向けることで、
必要なサポートにつながりやすくなる病気です。
気になる症状が重なっていると感じたら、一度立ち止まって、体のサインを整理してみましょう。
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