知らないうちに体に入り込むマイクロプラスチック、その健康への影響とは

私たちの生活の中で、「プラスチック」は欠かせない存在になっています。その一方で、自然環境に流れ出たプラスチックが細かく砕け、マイクロプラスチックと呼ばれる小さな粒子として世界中に広がっています。環境問題として語られることが多い一方で、最近では「人の身体にも入っているかもしれない」という研究結果が増え、健康や美容の分野でも取り上げられる機会が増えています。海や大気だけの問題ではなく、自分の生活にどれほど関係しているのか。その全体像を理解することは、これからの健康づくりにも役立つ視点になります。

マイクロプラスチックとは?

マイクロプラスチックとは、5mm以下の非常に小さなプラスチック片のことを指します。一見「砂粒」や「ほこり」のように見えることもあり、肉眼ではほとんど確認できないほど微細なものも含まれます。

マイクロプラスチックには、大きく分けて2種類あります。

・一次マイクロプラスチック

はじめから小さな状態で作られたものです。洗顔料や歯磨き粉に使われていた「マイクロビーズ」や、工業製品の原料として使われるペレットなどが該当します。近年は規制が進んだものの、完全にはなくなっていません。

・ 二次マイクロプラスチック

大きなプラスチック製品が、紫外線や摩耗によって砕けることで生まれます。ペットボトル、食品トレー、ビニール袋、衣類の化学繊維など、私たちが日常で使うあらゆるプラスチックが細かくなり、いろいろなところに広がっていきます。

プラスチックは自然界で完全に分解されるのではなく、細かく砕けていくだけだとされています。そのため環境中に拡散し、海・川・大気・土壌、さらには食品からも検出されるようになっています。

特に近年問題となっているのは、マイクロよりもさらに小さいナノプラスチックの存在です。ナノサイズは1mmの1000分の1以下という極小の粒子で、細胞膜を通り抜ける可能性があるとされ、医療・美容の観点からも研究が進められています

マイクロプラスチックは、海や川だけでなく、空気中や土壌、さらには家庭内にも存在します。衣類(特にフリースなどの合成繊維)から出る極小の繊維が空気中に舞い、呼吸とともに体内に取り込まれるケースもあります。このように、生活のどこにいてもマイクロプラスチックに触れない日はほとんどないといわれています。

さらに、プラスチック自体に含まれる添加剤や、環境中で吸着した有害化学物質が一緒に体内に入る可能性も指摘されています。そのため、単なる「小さなゴミ」ではなく、身体へのさまざまな影響が研究される対象となっています。

このように、マイクロプラスチックは私たちの生活のすぐそばに存在し、知らないうちに体内へ取り込まれている可能性のある物質です。だからこそ、健康や美容を考える上でも無視できない存在となっているのです。

なぜ今、マイクロプラスチックが注目されているのか

マイクロプラスチックの問題は、決して“最近突然発生した問題”ではありません。しかし、ここ数年で急激に注目されるようになりました。その背景には、いくつかの重要な理由があります。

・測定技術の進歩で“見えるようになった”ため

マイクロプラスチックは、最近発生するようになったものではありません。ラマン分光法や電子顕微鏡などの検出技術が進化し、微細なプラスチックがより「見える」ようになりました。見えるようになった結果、血液や肺といった人体の深い部分からもマイクロプラスチックが見つかり、健康への影響が改めて問題視されるようになりました

・プラスチックの使用量が増え続けているため

世界のプラスチック使用量は過去40年間で大幅に増加し、環境中に蓄積されたプラスチックも増え続けています。その結果、生活のあらゆる場面で暴露する可能性が高まっています。

・食べ物や飲み物からも検出され始めたため

食塩・魚介類・はちみつ・ビールなど、私たちが日常的に口にする食品からもマイクロプラスチックが検出されています。「環境の話」から「自分の体の話」へ視点が変わったことにより、注視されるようになっています

・健康への影響研究が増えてきたため

炎症、酸化ストレス、腸内環境、ホルモンバランスへの影響など、人体への関係が示唆される研究結果が増えています。特に、腸のバリア機能や免疫に関する研究が焦点になっています

・美容との関連が話題になってきたため

健康への影響として指摘されている「炎症」や「酸化ストレス」は、肌の老化・くすみ・ニキビなどとも深い関係があります。このため、美容分野でも話題が広がり、さらに注目の領域が広がっています

さらに、人は1週間でクレジットカード1枚分(約5g)のプラスチックを摂取している可能性があるという推計も話題になり、一般の関心を一気に高めました。正確な量には議論があるものの、生活の中で知らないうちに取り込んでいるという現実を示す象徴的なデータです。

加えて、世界的なプラスチック使用量の増加により、環境中のマイクロプラスチック量は年々増え続けています。プラスチックが有害物質を吸着しやすい性質も注目され、環境ホルモンや農薬などが付着したまま体内に入る可能性が指摘されています。

このように、科学技術の進歩研究の蓄積生活との関わりの深さが重なり、マイクロプラスチックは今、大きな注目を集めるテーマになっているのです。

どのように体に入るのか?

マイクロプラスチックは私たちが気づかないうちに、さまざまな経路から体の中に入る可能性があります。

① 食べ物

  • 魚介類(とくに貝類)  

     → 海水をそのまま体内に取り込む性質があるため、環境中のマイクロプラスチックが残りやすいとされています。

  • 海塩  

     → 海水を濃縮してつくるため、どうしても微小な粒子が混ざりやすい食品のひとつです。

  • 海藻  

     → 海の中で育つため、周囲の環境にある細かなプラスチックが付着しやすいといわれています。

  • 加工食品(包装材の微細な破片)  

     → 包装材とのこすれによって小さなプラスチックが混入するケースもあり、日常的な食品でも注意が必要です。

② 飲料水

  • 水道水  

     → 地域や施設の環境によって含まれる量が変わるとされ、水を通して取り込む可能性があります。

  • ミネラルウォーター  

     → 製造や輸送の過程で微細な粒子が入り込むことがあり、世界的にも調査が進んでいます。

  • ペットボトル飲料  

     → 容器自体がこすれて小さな粒が水へ移る場合があるため、研究が続けられている分野です。

  • 炭酸飲料  

     → ボトル内圧が高まることで微細な破片が混じる可能性があり、こちらも注目されています。

③ 空気(吸入)

  • 化学繊維の衣類  

     → 着て動くだけで細かな繊維が空気中に舞い上がり、呼吸と一緒に体内へ入ることがあります。

  • タイヤの摩耗粉  

     → 車が走るたびに道路で削れて発生し、風に乗って広がるため、思ったよりも身近に存在しています。

  • 室内のカーペットやカーテンの繊維  

     → 生活空間でこすれたり動いたりするだけで細かい繊維が出ることがあり、室内では濃度が高まることもあります。

特にタイヤの摩耗は海へ流れ込むマイクロプラスチックの主要原因のひとつとされ、意外な発生源として注目されています。

④ 皮膚接触

ナノレベルの小ささになると皮膚バリアを通過する可能性も指摘されており、スクラブ入り化粧品では規制が進んでいます。

食べる・飲む・吸い込むという日常的な行動から体に取り込まれている可能性があります。

身体への影響

体のどこから検出されているのか

マイクロプラスチックは、体のさまざまな場所から検出されたという報告があります。まだ研究段階ではありますが、「思ったよりも体の中に入り込んでいる可能性がある」という点で注目されています。

  • 血液  

     → 体の中を巡る血液から粒子が見つかり、全身へ運ばれる可能性が示唆されています。

  • 肺  

     → 空気と一緒に吸い込まれ、呼吸器の奥深くまで届くケースがあると考えられています。

  • 心臓付近の組織  

     → 循環器の周辺でも検出され、どのように移動したのかが研究の焦点になっています。

  • 胎盤  

     → お母さんと赤ちゃんをつなぐ大切な場所である胎盤でも見つかったという報告があり、影響を慎重に見守る必要があります。

  • 糞便  

     → 食べ物や飲み物を通じて体内に入った一部が、そのまま排出されている可能性があります。

このような検出結果は、「マイクロプラスチックが体に入ること自体が特別なことではなく、日常的に起きうる」という現実を示しています。

身体そのものへの影響

体の中に入ったマイクロプラスチックは、物理的な刺激や化学物質の付着など、さまざまな形で体に影響を与える可能性があります。

  • 腸の炎症  

     → 微細な粒子が腸壁を刺激し、体が自分を守ろうとして炎症が起こることがあります。

  • 腸内環境の乱れ  

     → 腸のバリアが弱まると腸内フローラにも影響し、全身の調子が揺らぎやすくなります。

  • 細胞へのストレス  

     → 異物に対応しようとして細胞に負担がかかり、ストレス反応が生まれることがあります。

  • 化学物質の運搬  

     → マイクロプラスチックは有害物質を吸着しやすく、それらを一緒に体へ運び込んでしまう可能性があります。

  • 微粒子そのものの刺激  

     → 粒の存在だけでも組織を刺激し、炎症や細胞の働きに影響を与えることがあります。

数マイクロメートル以下の粒子は腸管バリアに接触しやすく、炎症やホルモンバランスへの影響が懸念されています。

免疫への影響

免疫は体を守るために働く大切な仕組みですが、マイクロプラスチックによってバランスが乱れる可能性が指摘されています。とくに腸は免疫細胞が多く集まるため、腸の状態がそのまま免疫にも影響しやすい場所です。

  • 免疫の過剰反応  

     → 異物に反応し続けることで、炎症が長引いたり、体が常に緊張状態になったりしやすくなります。

  • アレルギー反応の強まり  

     → 免疫のバランスが乱れることで、アレルゲンに対して過敏になりやすい状態が生まれます。

  • 自己免疫的な反応  

     → 理論的には、自分の細胞に誤って反応するリスクが高まる可能性があります。

体の内側で起きたこうした変化は、そのまま肌の状態にも影響することがあります。

美容との関係

体内で起きた炎症や酸化ストレス、免疫バランスの乱れは、肌のコンディションにも反映されます。肌は内側の変化が現れやすい場所であるため、小さな刺激でも積み重なることで日々の肌感に影響することがあります。

  • 赤み・肌荒れ  

    → 体内の炎症が続くと敏感になり、ちょっとした刺激でも反応しやすくなります。

  • 乾燥・バリア機能の低下  

    → ストレスがかかると肌のうるおいを保つ力が弱まり、外からの刺激を受けやすくなります。

  • くすみ・透明感の低下  

    → 酸化ストレスが増えるとターンオーバーが乱れ、肌の明るさや透明感が失われやすくなります。

  • シワやたるみの進行  

    → 活性酸素によるダメージでコラーゲンの質が低下し、ハリ感が弱まりやすくなります。

これらはすべて、マイクロプラスチックそのものというより、体内で起こる反応の積み重ねによって肌に現れる影響だと考えられています。

日常生活でできる対策

マイクロプラスチックを完全に避けることは難しいものの、日常生活の中でやさしく減らす工夫はできます。たとえば、ペットボトルの使用を減らしてガラスやステンレスのマイボトルに切り替えるだけでも、容器から生まれる微細な破片を減らすことができます。水道水は浄水ポットや浄水器を通すことで、目には見えない粒子を取り除きやすくなります。

調理では、電子レンジでプラスチック容器を使用するのを控え、陶器やガラスへ移し替えるだけでも安心です。保存容器をガラスや琺瑯へ少しずつ切り替えていくと、日常的な暴露をやさしく減らせます。お茶やコーヒーを淹れるときに茶こしやペーパーフィルターを使うのも、微粒子を自然に減らせる工夫です。

空気からの暴露を減らすには、こまめな換気や掃除、空気清浄機の活用が役立ちます。化学繊維の衣類やカーテンなどから出る繊維を減らすため、洗濯ではマイクロファイバーフィルターを使うと効果的です。

さらに、身体が受けるダメージを減らすために、腸を整える発酵食品・食物繊維、抗酸化成分の多い食品、オメガ3脂肪酸などを取り入れることも有効です。炎症や酸化ストレスが抑えられることで、マイクロプラスチックの影響を受けにくい身体づくりにつながります。

すべてを完璧にする必要はありません。マイクロプラスチックは現代社会に広く存在するため、完全にゼロにすることは難しいですが、“少し減らす”だけでも身体の負担はやさしく変わります。できるところから無理なく取り入れ、自分の体と環境をそっと守る習慣を育てていくことが大切です。

まとめ

マイクロプラスチックは、環境だけでなく私たちの身体や肌にも影響を与える可能性がある存在です。まだ研究途上の部分も多いものの、炎症や酸化ストレス、免疫のゆらぎなど、健康の土台に関わる仕組みとのつながりが少しずつ明らかになってきています。

とはいえ、日常の中でまったく触れずに生きることは現実的ではありません。そのため、「完全に避ける」のではなく、“取り込む量を少しでも減らす”“体の内側を整えておく”という視点が大切になります。飲み物や保存容器の選び方、衣類や部屋のケア、腸や肌を守る食生活など、小さな工夫の積み重ねが身体へのやさしい負担軽減につながります。

環境に配慮する行動は、めぐりめぐって自分自身の健康と美容にも良い影響をもたらします。できる範囲で取り入れながら、今日よりも少し心地よい暮らしを育てていきましょう。

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