「ギラン・バレー症候群」という病気を耳にしたことはありますか?
急に足がしびれたり、力が抜けて階段や段差を昇降しにくくなったりと、日常生活に突然の変化をもたらす病気です。ギランバレー症候群は、誰にでも起こりうる急性の末梢神経障害で、多くの場合、風邪や胃腸炎といった感染症の2〜3週間後に発症します。
本来は体を守るはずの免疫が、誤って自分の神経を攻撃してしまうことが原因で起こり、進行が早いことが特徴です。この記事では、ギランバレー症候群について詳しくまとめていきます。
ギラン・バレー症候群とは
ギランバレー症候群(Guillain-Barré Syndrome)は、手足のしびれや筋力低下が急速に進行する自己免疫性の神経疾患です。多くはウイルスや細菌による感染をきっかけに免疫のバランスが乱れ、神経の表面を覆う髄鞘(ずいしょう)や神経軸索を免疫が攻撃してしまうことで発症します。
神経の信号の伝わりが悪くなるため、足のしびれや脱力から始まり、数日〜1週間で両足→両手→体幹→顔面と上向きに広がる特徴があります。
また、ギランバレー症候群は自己免疫疾患のひとつで、「急性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(AIDP)」というタイプが最も一般的です。そのほか、軸索が障害されるタイプ(AMAN・AMSAN)など、複数のサブタイプが存在します。
ギラン・バレーの由来
病名の「ギラン・バレー」は、ふたりのフランス人医師ジョルジュ・ギランとジャン・アレクサンドル・バレーを指します。第一次世界大戦中、彼らは急に足が動かなくなった兵士たちの症例を集め、その共通点を明らかにしました。
実は、研究にはストロール医師も関わっていましたが、病名には含まれていません。当時は病名があまりにも長くなることを避ける傾向があり、ギランとバレーの名前のみが採用されたとされています。
かかりやすい方に見られる共通点
ギランバレー症候群は誰でも発症しうる病気ですが、医学的にはいくつかの“発症前の共通点”が知られています。特に多いのが、発症2〜3週間前の感染症です。
- 風邪(ウイルス感染)
- 胃腸炎
- カンピロバクター感染
- マイコプラズマ感染
- インフルエンザ
年齢では、10歳前後のこどもと、20〜34歳の若い成人にやや多く見られます。男女比では男性の方がわずかに多いとされていますが、女性にももちろん起こりえます。
また、ごくまれに予防接種後や強いストレスのあとに発症する例がありますが、感染後の発症に比べると頻度はかなり低く、心配しすぎる必要はありません。
症状から診断までの流れ
ギランバレー症候群の初期症状は、足先のしびれや脱力感です。「なんとなく足が重い」「階段の昇り降りがしにくい」などの違和感から始まり、数日〜1週間ほどで症状が広がります。症状は左右対称で進行することが多く、片側のみの突然の麻痺が多い脳卒中とは大きく異なります。
症状が強くなると、手の細かい動作が難しくなるほか、顔面神経が弱ることで顔の表情が作りづらくなる場合もあります。重症例では飲み込みにくさや呼吸筋の弱りによる息苦しさが見られ、早期の受診が重要です。
診察で重視されるポイント
- 症状が数日〜1週間の速い速度で進行しているか
- しびれや脱力が足→手→顔(下から上へ)という広がり方をしているか
- 腱反射(膝を叩く反射)が弱くなっているか
- 呼吸が浅くなっていないか
- 顔面麻痺の有無
特に腱反射(脚気の検査でも使われる、膝の皿のすぐ下にある膝蓋腱を軽く叩く検査)の反応低下はギランバレー症候群の特徴的なサインで、診断に大きく役立ちます。
確定診断に行われる検査
- 神経伝導検査
神経に電気を流し、信号の速度を測定します。髄鞘が免疫の攻撃で傷つくことを「脱髄(だつずい)」といいますが、この脱髄があると伝わる速度が遅くなるため、病型の判断にも重要です。
- 髄液検査
数日経つと髄液中のたんぱく質が上昇し、細胞は増えないという「蛋白細胞解離」が見られることが多いです。
- 血液検査
感染の有無や他疾患との区別に使用されます。
- 呼吸機能検査
呼吸筋の弱りを早期に見つけるために行われます。
ギランバレー症候群は進行が早いため、検査と治療が同時に進むことも珍しくありません。
治療の目的と選択肢
治療の目的は2つです。
1:免疫の暴走を止める
2:神経の回復を助ける
ギランバレー症候群は自然に回復する力もありますが、悪化しすぎると呼吸筋麻痺により命に関わる可能性があるため、早期治療が重要です。
1:免疫グロブリン療法(IVIg)
標準治療としてもっとも広く行われている治療です。点滴で大量の免疫グロブリンを投与し、暴走した免疫反応を鎮めます。
免疫グロブリン療法は、健康な人の血液から集めた抗体(免疫グロブリン)だけを濃縮して点滴する治療です。大量の正常な抗体が体内に入ることで、暴走している免疫が落ち着き、神経への攻撃が止まりやすくなります。免疫のバランスを整える作用があるため、ギランバレー症候群の初期治療として、また世界的に標準治療として用いられています。
- 治療期間:5日間
- 効果:数日〜1週間で現れることが多い
- 副作用:頭痛・発熱(まれに重症)
2:血液浄化療法(血漿交換)
血液中の異常な抗体を取り除く治療で、免疫グロブリン療法とほぼ同等の効果があります。重症の場合や早く改善を促したい場合に行われます。
血液浄化療法は、血液の液体部分(血漿)だけを入れ替えることで、神経を攻撃している抗体や免疫物質を取り除く治療です。血液を機械に通して血漿だけを分離し、代わりにアルブミン液などを補いながら体に戻します。いわば免疫の大掃除のような治療で、ギランバレー症候群の進行を早く抑える効果があります。
- 治療期間:1〜2週間に数回
- 副作用:血圧低下など
3:呼吸管理
呼吸筋の弱りが進むと、集中治療室で人工呼吸管理が必要になることがあります。呼吸状態の悪化は突然急激に進むことがあるため、早期の監視が欠かせません。
4 リハビリテーション
神経の回復には時間がかかるため、退院後も数か月〜1年にわたりリハビリを継続することがあります。筋力の回復だけでなく、歩行訓練や筋力トレーニング、関節が固まらないように調整することも重要です。
ギラン・バレー症候群は治るの?
ギランバレー症候群は治る可能性が高い病気です。早期治療を受けた場合、およそ 8〜9割の人が日常生活に戻ることができます。
ただし、免疫の攻撃が止まったあとも、神経はゆっくり修復するため、治療が効いて免疫が落ち着いたあとでも、症状の改善が見えてくるまでに数週間〜数か月かかることは珍しくありません。
回復の目安
- 軽症:数週間〜数か月
- 中等症:数か月〜半年
- 重症:半年〜1年
後遺症が残る人は約2割ですが、多くは軽症で、リハビリを継続すれば改善が期待できます。
ギラン・バレー症候群は再発するの?
ギランバレー症候群はほとんどの人が生涯で1回きりの病気です。再発率は2〜5%と非常に低く、95〜98%の人は一度発症したら再び起こることはありません。
再発はまれですが、もし2回目が起こった場合でも、多くの人が「前と同じ症状」に早く気づくため治療開始が早くなり、結果的に予後は良くなる傾向があります。また、一度発症したことで、体が“誤作動を学習”しやすくなるという説もあります。
再発しやすいタイプが完全に特定されているわけではありませんが、軸索型(AMAN・AMSAN)での発症や、カンピロバクター感染を繰り返す人は再発のリスクがわずかに高いとされています。
治療の流れ
- 発症〜数日:診断・治療開始
- 1〜2週間:症状のピーク
- 1〜3か月:ゆっくり改善が進む
- 半年〜1年:神経の回復が続く
ギランバレー症候群は進行が早い反面、治療が適切に行われれば多くの人が回復していく病気です。大切なのは、不安をひとりで抱えず早めに相談することです。
まとめ
ギランバレー症候群は、風邪や胃腸炎のあとに起こりうる自己免疫の病気で、初期は手足のしびれや力が入りにくいといった小さな違和感から始まります。進行が早いことが特徴ですが、適切な時期に治療を受けることで多くの人が完治に向かいます。神経の修復には時間がかかろものの、体は着実に回復へ向けて動いています。
シェーグレン症候群という言葉を聞いたことがありますか?
目や口が乾く、コンタクトが合わないーそんな何気ない不調の裏に、この病気が潜んでいることがあります。涙や唾液が極端に出にくくなることで、生活のさまざまな場面で不便や違和感が生じやすくなる自己免疫疾患のひとつです。
「なんだか乾くな」「疲れやすい気がする」など、最初は小さなサインから始まるため気づきにくいのが特徴です。しかし、適切なケアと治療を行うことで症状を和らげながら日常生活を続けていくことができます。
シェーグレン症候群とは
シェーグレン症候群は、免疫が自分の体を攻撃してしまう自己免疫疾患です。特に涙腺や唾液腺などの外分泌腺に炎症が起き、涙や唾液の分泌が減少します。
涙腺や唾液腺が強く影響を受けるため目と口の乾燥が中心ですが、関節痛、皮膚の乾燥、慢性的な疲労など全身に症状が広がることもあります。他の自己免疫疾患(関節リウマチや橋本病など)と併発しやすいのも特徴です。
なお、この病名はスウェーデンの眼科医ヘンリック・シェーグレンに由来します。涙や唾液が出にくい患者を体系的にまとめた最初の医師です。
主な症状
代表的なのは乾燥症状ですが、実際には全身症状も現れる病気です。
目の症状(ドライアイ)
- 目が乾燥してゴロゴロします。
- 光がまぶしく感じます。
- コンタクトが合わなくなることがあります。
- 角膜に傷がつきやすくなります。
口の症状(ドライマウス)
- 口が乾燥し、食べ物が飲み込みにくくなります。
- 虫歯や口臭が増えやすくなります。
- 夜間、のどの乾燥で目が覚めることがあります。
味を感じるには食べ物の成分が唾液に溶ける必要があります。唾液が少ないと味が薄く感じたり、美味しさが分かりにくくなったりすることがあります。つまり唾液は味覚にも重要な役割を持っています。
全身症状
- 関節痛や筋肉痛があります。
- 慢性的な疲労や倦怠感があります。
- 手足のしびれが生じることがあります。
- 皮膚が乾燥し、かゆみが出ることがあります。
どうやって診断するの?検査とその流れ
症状だけでは判断できないため、検査を組み合わせて診断します。自己免疫が原因かどうかを総合的に評価します。
血液検査
- 抗SSA抗体・抗SSB抗体の有無を調べます。
- 炎症や免疫異常の指標も確認します。
抗SSA抗体はシェーグレン症候群でよく見られる抗体で、抗SSB抗体はより特異性が高く診断の信頼度を高める指標になります。
ドライアイ検査
- シルマー試験(涙の量を測定)を行います。
- 目の表面の傷の有無をチェックします。
ドライマウス検査
- 唾液量の測定をします。
- 小唾液腺生検で炎症の有無を調べることがあります。
これらを総合して診断されます。初期段階では経過観察を行い、必要に応じて再検査することもあります。
原因と発症のメカニズム
原因ははっきり分かっていませんが、遺伝 × ホルモン × 環境が関係していると考えられています。
なぜ涙腺と唾液腺が狙われるの?
涙腺や唾液腺は外から細菌やウイルスが侵入しやすいため、もともと免疫細胞が多く配置されています。警戒態勢が高い場所に、自己抗体(抗SSA抗体・抗SSB抗体)が関与することで、免疫が誤って攻撃を強めてしまい、炎症が続いて涙や唾液が出にくくなります。
さらに、これらの腺には自己抗体の標的となるタンパク質が豊富に存在し、ウイルス感染やホルモンの変化などの影響も受けやすいことが分かっています。このような要因が重なることで、涙腺・唾液腺が特に障害されやすいと考えられています。
どんな人がなりやすい?
シェーグレン症候群は誰にでも起こりうる病気ですが、特に次のような傾向があります。気づきにくいサインを早めにキャッチすることが大切です。
- 女性に多い(特に更年期以降)
女性ホルモンの変化が涙や唾液の分泌に影響し、乾燥症状が出やすくなります。
- 家族に自己免疫疾患がいる
遺伝的な体質が関与していると考えられています。
- 他の自己免疫疾患がある(関節リウマチ・橋本病など)
併発することが多く、注意が必要です。
- ウイルス感染の既往(EBウイルスなど)
感染をきっかけに免疫が誤反応することがあります。
- 口や目の乾燥が長く続いている
「年齢のせい」「疲れのせい」と思っていた乾燥が、実はサインのこともあります。
これらが当てはまるからといって必ず発症するわけではありませんが、不調が続く場合は、ひとりで抱えずに専門家へ相談してみましょう。
治療の目的
根治の難しい病気のため、症状を和らげて生活の質(QOL)を保つことが治療の中心です。乾燥症状を放置すると角膜炎や虫歯に進む可能性があるため、早めにケアを始めることが大切です。
治療方法
治療は乾燥対策と免疫調整を柱に行います。
目の乾燥への治療(ドライアイ)
- 人工涙液・ヒアルロン酸点眼を使用します。
- 涙点プラグ(涙の出口を塞ぐ処置)を行うことがあります。
- 加湿やまばたきの意識で乾燥を防ぎます。
涙には水分だけでなく、蒸発を防ぐ油の層、目の表面に密着させるムチン層があり3層構造になっています。シェーグレン症候群では水分の層が不足しやすいだけでなく、ムチン層の質が低下して涙が広がりにくくなることがあります。
また「涙が少ないのに出口を塞ぐの?」と思うかもしれませんが、涙は量だけでなく、どれだけ長く目にとどまれるかがとても重要です。涙点プラグは涙の排出口を塞ぐことで、涙が長く目に留まり、乾燥を防ぐ効果が期待できます。
口の乾燥への治療(ドライマウス)
- 口腔保湿ジェルやスプレーを使用します。
- 唾液分泌を促す薬(セビメリン/ピロカルピン)を使います。
- 虫歯予防のためフッ素塗布を行います。
唾液には食べかすを洗い流し、酸を中和して歯を守り、自ら歯を修復する再石灰化の働きがあります。また、食べ物の成分を溶かして舌に届けるため、唾液が少ないと味覚が低下したり、虫歯が増えやすくなったりします。そのため、フッ素で歯を強くしながら唾液を補う対策が大切です。
全身症状への対処
- NSAIDsで関節痛に対処します。
- 皮膚の乾燥には保湿剤を使用します。
- 疲労感には休息や生活リズムの調整が役立ちます。
免疫異常に対する治療
炎症が強い場合や内臓に影響が出る場合に検討します。
- ステロイド薬で炎症を抑えます。
- 免疫抑制薬(メトトレキサート等)を使用することがあります。
- 重い例では生物学的製剤を使用することがあります。
シェーグレン症候群は指定難病
シェーグレン症候群は国の指定難病に含まれており、医療費の助成を受けられる制度があります。長期的な治療が必要な患者さんの負担を減らすための仕組みです。
医療費助成の申請は、お住まいの地域を管轄する保健所で行います。必要な書類や手続きについては、医療機関や保健所と相談しながら進めていきましょう。
日常生活でできる工夫
- こまめな水分補給を心がけます。
- 加湿器で室内の湿度を整えます。
- サングラスで光の刺激を軽減します。
- 口腔ケアを丁寧に行い虫歯を防ぎます。
- ストレスをためすぎないよう生活を整えます。
まとめ
ギランバレー症候群は、風邪や胃腸炎など感染症のあとに起こりうる自己免疫の病気で、」初期は手足のしびれや力が入りにくいといった小さな違和感から始まります。もし「いつもと違うな」と感じる症状が続く場合は、ひとりで悩まず早めに医療機関へ相談してください。
ギラン・バレー症候群の治療や回復の経過は人それぞれですが、不安を抱えながら過ごす必要はありません。医師と一緒に状況を確認しながら進んでいけることが、安心や前向きな気持ちにつながっていきます。
日々のちょっとした違和感が、体からの大事なサインであることもあります。気づいたときに行動することが、未来のあなたを守る一歩になります。