健康意識やサステナビリティ意識の高まりに伴って急速に需要が拡大しているプラントベース(植物性)ミルク。世界の植物性ミルクの市場規模は、健康志向の高まりやヴィーガンなどのライフスタイルの多様化から急増しており、2020年の226億米ドルから2026年には406億米ドルにまで達すると予測されています。
日本でも最近は、豆乳をはじめアーモンドミルクやオーツミルクなど、スーパーマーケットやコンビニなど身近な売り場でも目にする機会が増えるようになりました。
今回は、植物性ミルクと動物性ミルクの違いを解説していきます。
植物性ミルクとは?
ミルク、と名前がついていますが、豆やナッツ、穀物などを細かく砕いて水と混ぜ、濾した飲料のことであり、辞書や食品衛生法上の「乳」には当てはまりません。見た目が白っぽく、牛乳の代わりとして使える場合があることからミルクと呼ばれています。
この呼び方ですが、国によっては議論の的となっていて、例えばEUでは「milk」を乳製品以外に使うことが原則禁止されており、「oat milk」はNGで、「oat drink」と表示することがルールとして定められています。
アメリカでは乳業団体が「植物性ミルクは紛らわしい!」と訴えたこともありますが、2023年、FDA(米国食品医薬品局)が植物性ミルク製品に「milk」の表示を正式に許可しました。
一方、日本では明確な規制がなく、豆乳やココナツミルクが自由に流通し、市場では「ミルク」として受け入れられています。
植物性ミルクの種類
需要が高まるにつれ、様々な種類が登場しています。それぞれの特徴とともにご紹介していきます。
・豆乳
日本で最も馴染み深い植物性ミルクです。カロリーは牛乳の約3分の2でありながら、良質なタンパク質、抗酸化作用や過酸化脂質の生成抑制作用のある「サポニン」や、ビタミンB1、B2、B6やビタミンEなどの「ビタミン類」、整腸作用のある「オリゴ糖」なども含まれていることから、美容効果にも注目が集まっています。
・ココナツミルク
タイ料理やベトナム料理など、エスニック料理に欠かせないのがココナッツミルクです。脂肪分が多く含まれるため、濃厚で甘みのあるクリーミーな味わいが特徴で、人体に必要なミネラルの一種でナトリウムを排出する作用のある「カリウム」が含まれているため、塩分の摂り過ぎを調節する作用があります。また、骨の形成や体内のさまざまな代謝を助ける機能を持つ「マグネシウム」や、体内で効率よく分解されてエネルギーとなるため脂肪として蓄積されにくい「中鎖脂肪酸」も含みます。
・オーツミルク
オーツミルクは、オートミールやグラノーラにも使われているオーツ麦を原料とし、優しい甘みと癖のないマイルドな味わいが特徴です。他の植物性ミルクに比べて、コーヒーとの相性が良く温かい飲み物に入れても分離しにくいため、近年はスターバックスやブルーボトルコーヒーなどの大手カフェチェーンでもオーツミルクラテが提供されています。食物繊維が豊富に含まれています。
・ライスミルク
ライスミルクには、米粉と水を混ぜ合わせて作る製法と、お米を発酵させて液状にする製法があります。他の植物性ミルクに比べて脂質が少ないため、さっぱりとした味わいとお米由来のほんのりとした甘味が特徴です。
乳や小麦、落花生など、加工食品で表示が義務づけられているアレルギー物質の特定7品目をはじめ、特定原材料に準ずる21品目である大豆やアーモンド、カシューナッツなども含んでいないため、食物アレルギーリスクの低いミルクといえます。
日本では近年、日本酒製造におけるお米を発酵する技術を活かし、酒造メーカーで作られたライスミルクが商品化されています。
・アーモンドミルク
製法はメーカーによりさまざまですが、水に浸けておいたアーモンドに水を加えて潰し、ペースト状にしたものを漉して作る製法が一般的です。さらさらした飲み口とアーモンド特有の香ばしい風味が特徴で、ビタミンEや食物繊維が豊富に含まれます。
原料のアーモンドに含まれるビタミンEはピーナッツの約3倍で、食物繊維はレタスの約9倍に相当するといいます。また、牛乳に比べて糖質やカロリーが低く、未開封であれば常温で約270日の保存が可能です。
その他にも、麻の実を原料とし、オメガ3やオメガ6を含むヘンプミルクや、スイカの種を原料としたもの、とうもろこしが原料のものなど、植物性ミルクの種類は多岐にわたります。
植物性ミルクのメリット・デメリット
植物性ミルクには牛乳で摂ることのできない食物繊維が豊富に含まれています。一部を除いて低カロリーでダイエット向きであったり、乳糖が含まれていないため乳糖不耐症の方でも安心して飲むことができ、牛乳よりもカロリーが低く日持ちするなど、様々なメリットがあります。
しかし、動物性ミルクと比べてデメリットもあります。
・含まれる栄養素について
たとえば、植物性食品に含まれる鉄は「非ヘム鉄」と呼ばれ、動物性食品の鉄(ヘム鉄)に比べて吸収率が低い傾向があります。同様にカルシウムも植物由来の場合は吸収されにくいことがあるため、吸収率を高める工夫としてビタミンCを含む食品と組み合わせると良いでしょう。
また、ビタミンB12は、主に動物性食品に含まれており、植物性食品からは十分に摂取することが難しい栄養素です。そのため、サプリメントや強化食品に頼る必要が出てくる場合があります。
牛乳に比べてタンパク質やカルシウムが少ない場合がある点も注意が必要です。
・健康リスクとコストの問題
植物性食品はアレルギーを起こすリスクが比較的低く、乳アレルギーや乳糖不耐症の方でも安心して摂取することができます。しかし、植物性の代替食品の中には加工が進んだものも多く、添加物や塩分、砂糖を加えてあることで糖分が高めの商品も存在します。
さらに、アーモンドミルクやココナッツヨーグルトなどの植物性代替食品は、一般的な乳製品よりも価格が高めな傾向もあります。
環境面への影響
乳製品は牛の飼育に多くの資源を必要とし、温室効果ガスの排出量が高く、水や土地といった資源の過剰利用、汚染と環境への負荷が大きいことが知られています。
酪農業は二酸化炭素の排出量が全産業の3〜4%を占めるといわれることに加え、乳牛を飼育するためには多量の穀物を必要とし、その穀物の栽培には多くの水を使用します。その他にも、アニマルウェルフェアの観点からも工業的な乳牛の飼育はエシカルではない面が多く見られます。
オックスフォード大学の調査によると、コップ1杯(200ml)の牛乳を製造するには植物性ミルクの約3倍の温室効果ガスを排出するとされます。毎日1杯の牛乳を1年間生産するには、650平方メートルの土地が必要です。この面積は、テニスコート2つ分に相当し、同じ量のオーツミルクを作るのに必要な面積の10倍以上です。
一方、植物性食品は生産時の環境負荷が低いことが多く、大豆やオーツミルクなどは比較的サステナブルな選択肢とされています。
しかし、植物性ミルクであればすべて環境負荷が低いとは言い切れません。なぜなら各ミルクを原料から栽培する際に使われる資源、輸送にかかる燃料消費なども考慮が必要だからです。例えば、アーモンドミルクの生産には豆乳やオーツ麦ミルクよりも多くの水を必要とします。 コップ1杯のアーモンドミルクには、74リットルの水が必要です。
動物性ミルクのメリット・デメリット
乳製品は、私たちの健康に必要な栄養素を多く含む食品として知られています。
牛乳には骨や歯を強くするカルシウムが豊富に含まれており、1杯(約200ml)で成人が1日に必要なカルシウムの約30%を摂取することができます。
また、乳製品には良質なタンパク質も豊富に含まれており、筋肉の維持や修復に役立ちます。さらに、ビタミンB12やビタミンDも摂取できるため、成長期の子ども、骨粗しょう症予防を考える中高年にとって特に重要な食品です。
さらに、ヨーグルトやチーズといった乳製品には乳酸菌が含まれ、腸内環境を整える働きがあります。腸内環境が整うことで免疫力アップや肌の調子が良くなるといったメリットも期待できます。
日常的に手軽に摂取できる食品であることから、栄養価をしっかりと取り入れやすい点も乳製品の魅力です。
栄養価が高い反面、注意したいリスクも存在します。
一部の人には、牛乳に含まれる乳糖を分解できない「乳糖不耐症」が見られます。この症状を持つ人が乳製品を摂取すると、下痢や腹痛を引き起こすことがあります。また、乳製品には脂肪分も含まれているため、特に動物性脂肪の過剰摂取が心配されます。
これは、コレステロール値の上昇や心疾患のリスクを高める可能性があるためです。
さらに、アレルギーの観点では、乳たんぱく質による「乳アレルギー」が問題になる場合があります。
これらのリスクは乳製品の種類や摂取量、個人の体質など、さまざまな要因が複雑に絡み合っているため、一概に乳製品が健康に悪いとは言えません。
自分の体質や健康状態を理解し、摂取量や種類を調整することが大切です。
植物性ミルクと動物性ミルク、どちらを選ぶ?
牛乳(動物性ミルク)と、豆乳・アーモンドミルク・オーツミルク(植物性ミルク)には、それぞれに特徴と適したシーンがあります。以下の比較表を参考に、自分の目的やライフスタイルに合わせて選びましょう。
種類 | 栄養・特徴 | おすすめの方・目的 | 注意点 |
---|---|---|---|
牛乳(動物性ミルク) | カルシウム・タンパク質が豊富。成長期や骨の健康維持に役立ちます。 | 骨を強くしたい方、筋トレをしている方、成長期の子ども。 | 乳糖不耐症や牛乳アレルギーの方は注意。脂肪分が気になる場合は低脂肪乳を選びましょう。 |
豆乳(植物性) | 高タンパクで低カロリー。大豆イソフラボンがホルモンバランスを整えます。 | 美容や更年期ケアを意識する女性、筋肉を維持したい方。 | 大豆アレルギーの方は避けましょう。無調整タイプは風味が独特です。 |
アーモンドミルク(植物性) | ビタミンEが豊富で抗酸化作用があります。低カロリーでダイエット向きです。 | 美肌やアンチエイジングを意識する方、ダイエット中の方。 | タンパク質やカルシウムは少なめ。栄養が補強されている商品を選ぶと良いです。 |
オーツミルク(植物性) | 食物繊維(βグルカン)が豊富で腸活に◎。血糖値の上昇を抑える効果もあります。 | 便秘対策や腸内環境を整えたい方、血糖値が気になる方。 | 糖質がやや多い場合があるので、無糖タイプを選ぶのがおすすめです。 |
シーン別おすすめの選び方
- 筋トレ後や成長期 → 牛乳や豆乳でタンパク質をしっかり補給
- ダイエットや美容 → アーモンドミルクで低カロリー&抗酸化
- 腸活や血糖値ケア → オーツミルクで食物繊維をプラス
- 環境やエシカル意識 → 植物性ミルク全般を日常的に取り入れる
結論として、「どちらが良いか」ではなく、自分の体質・目的・ライフスタイルに合わせて飲み分けるのがベストです。
まとめ
ヴィーガンの方からも人気が高く、サステナビリティの観点からも注目されている植物性ミルクですが、どちらが良いのかということは一概には言えません。
大切なのは、多様な食品をバランス良く摂取することです。環境に優しく、健康的で持続可能な選択を意識しながら、自分にあった食材を見つけていきましょう。