アトピー性皮膚炎でお悩みの方も多いのではないでしょうか。日本のアトピー性皮膚炎患者の数は増加傾向にあり、厚生労働省の調査によると、2008年では約35万人でしたが、2020年には125万人を超えています。これはスウェーデンに次いで世界第2位だともいわれています。
重症度別に通院状況をみた調査では、軽症の患者の8割以上、中等症・重症の患者でも半数近くは通院をしていません。
しかし近年、アトピー性皮膚炎は、他のアレルギー疾患の発症に関係することがわかってきました。軽症であっても治療や対策を講じ、寛解を目指すことが重要です。
そこで今回は、皮膚科での治療に加えて注目されているアトピー性皮膚炎と食べ物の関係について解説します。
アトピー性皮膚炎の方、お肌に良い食べ物に興味がある方はぜひ最後までご覧ください。
アトピーの原因と食べ物
アトピー性皮膚炎の原因は遺伝、皮膚のバリア機能の低下のほかにアトピー素因という、気管支喘息やアレルギー性鼻炎などのアレルギー性疾患の既往歴がある、またはIgE抗体というアレルギーに関わる抗体ができやすい体質を持つこと、またアレルギーを起こすハウスダストや花粉などの環境的要因など多岐にわたります。
一方で、食事との関連は低いとされます。アレルギー検査をして小麦や乳製品など特定の食物のアレルギーが判明しない限り、食事制限をしても効果はあまり期待できません。
そもそも、アトピー性皮膚炎はさまざまな要因が複合的にかかわることで、免疫が自分を攻撃するようになってしまう免疫疾患のひとつなので。食事制限だけで完治する可能性は低いといえます。逆に、厳しい食事制限を続けても症状が改善しないと、ストレスを感じて症状が悪化することもあります。
また、「妊娠中や授乳中の方がアレルゲンを除去した食事をすれば、子どもがアトピー性皮膚炎を発症しなくなる」という通説も、むしろ有害であるという研究報告があります。
アトピー性皮膚炎と食物アレルギー
乳幼児や小児などで、アトピー性皮膚炎と食物アレルギーを合併しているケースがみられるため、両者は同じものと混同されることがあります。しかし、食物アレルギーは特定の食物に対して身体が過剰に反応をしてしまい、蕁麻疹やかゆみ、下痢、嘔吐などが起こる状態です。
これに対し、アトピー性皮膚炎は皮膚のバリア機能が低下し、肌に炎症や皮疹が現れ、強いかゆみに悩まされる病気です。体が過剰な反応を起こすのは、主に肌に触れる花粉やホコリ、ダ二、ペットの毛などのアレルゲンが皮膚から侵入することに対してで、これを経皮感作と呼びます。よって、この経皮感作と食物アレルギーを混同せず、別の病気として考えることが必要です。
アトピー性皮膚炎患者が不足している栄養素と、多く含まれる食品
血液検査をすると、アトピー性皮膚炎の患者には特有の傾向がみられます。低タンパク、鉄・亜鉛、オメガ3脂肪酸の不足、ビタミンA・B群・Cの不足、低血糖症、抗酸化力の低下が主な特徴です。
・タンパク質
タンパク質は肌の弾力やバリア機能を支える重要な成分です。不足すると、肌トラブルが引き起こされ、アトピー性皮膚炎では症状が再発、または悪化することがあります。
肌の本体とも言える真皮は主成分がコラーゲンで、タンパク質が弾力を維持しています。不足すると弾力が低下し肌がたるみやすくなります。免疫細胞の材料でもあるため、感染全般がしやすくなり傷の治りも遅くなります。また、皮膚のバリア機能を支えるフィラグリンもタンパク質が必要です。不足すると保湿能力が低下し、外部刺激やアレルゲンが侵入しやすくなります。
アトピー性皮膚炎の方がタンパク質不足になる理由は、腸内環境の悪化により吸収が不十分になったり、皮膚の炎症や損傷でタンパク質が失われやすくなることです。これにより、慢性的な不足が起こります。
タンパク質が多く含まれる食べ物
- 肉類(鶏むね・ささみ、豚ロース・もも、牛もも)
- 魚介類(しらす、ごまさば、ぶり、ちくわ)
- 大豆製品(油揚げ、納豆、豆腐、おから、豆乳)
- 乳製品(チーズ、ヨーグルト、牛乳)
- 卵類 など
タンパク質の中には体内で合成できず、食事から摂取する必要があるものがあります。筋肉や臓器、毛髪の構成要素であったり免疫細胞のエネルギーにも使われるため、体内でたくさん消費される栄養素です。ぜひ意識して摂ることを心がけましょう。
・鉄、亜鉛
鉄は血液中にある赤血球の大部分を占めているヘモグロビンの主な成分です。赤血球は、頭のてっぺんからつま先まで全身に酸素を運ぶ大切な役割を果たしています。
鉄が不足すると、質の良い赤血球をつくることができなくなり、体のすみずみまで酸素を十分に送ることができず、皮膚や粘膜が酸素不足に陥ります。すると、受けたダメージの再生や新しい皮膚粘膜の生産がされないことから、乾燥肌やアトピー性皮膚炎の引き金となります。
特に、小児のアトピー性皮膚炎では大人よりもたくさんの栄養素が必要になるため、積極的に鉄を補充することが大切です。
亜鉛補充療法という治療法が提唱されるほど、亜鉛はアトピー性皮膚炎において大切な栄養素です。亜鉛補充療法とは難治性アトピー性皮膚炎の患者に従来の治療に加えて亜鉛を一定量摂取させるもので、ほとんどの患者に効果がみられました。
亜鉛は皮膚にも多く存在するため、かゆみで皮膚をかくと剥ける皮膚と一緒に喪失してしまいます。またコラーゲンの合成に関わっているため、亜鉛不足になると健康な皮膚が保てなくなり、皮膚炎やかゆみなどトラブルが生じやすくなったり、傷が治りにくくなったりしてしまいます。免疫機能が低下してしまうと皮膚感染が長引く原因にもなります。
また、亜鉛には皮膚の炎症を抑える働きもあり、亜鉛華軟膏や亜鉛華デンプンなどの酸化亜鉛が含まれる外用薬がアトピー治療にも使われています。
鉄が多く含まれる食べ物
- 貝類(あさり、しじみ)
- 海藻類(ひじき、青のり、わかめ)
- レバー
- 野菜(ほうれん草、小松菜、ブロッコリー、パセリ)
- 赤身の肉、魚
- コンビーフ
- 卵
- 乳製品 など
亜鉛が多く含まれる食べ物
- 貝類(牡蠣、ホタテ)
- 魚類(イワシ、サバ、アジ、)
- 肉類(牛、豚)
- 豆、ナッツ類(カシューナッツ、納豆、高野豆腐、そら豆、えんどう豆)
- 穀類(小麦、そば)
- ココア
- チーズ など
鉄と亜鉛はビタミンCと一緒に摂ると吸収率が良くなります。
・ビタミンA、B群、C
ほとんどのビタミンは体内で作り出すことができません。そのため食べ物から摂取する必要があります。
ビタミンは脂溶性と水溶性があり、ビタミンAは脂溶性、B群とCは水溶性です。溶けた状態で摂取すると効率がいいので、脂溶性ビタミンは油を使った炒め物、水溶性はスープや蒸し料理などで摂ることがおすすめです。
ビタミンAが多く含まれる食べ物
ビタミンAは皮膚の粘膜を健康に保ち、抵抗力を高めます。また目の健康にも良く、暗いところでの視力を保つ働きがあります。炒め物や揚げ物、油を使ったドレッシングをかけた料理で摂取すると摂取効率が上がります。
- 野菜類(にんじん、ほうれん草、モロヘイヤ)
- 乳製品(チーズ、バター、牛乳)
- うなぎ
- レバー など
ビタミンB群が多く含まれる食べ物
ビタミンB群は人の発達や代謝機能を適切に維持するために必要な栄養素です。疲労回復などの効果もあります。水溶性のため、汁ごと食べられる調理法がおすすめです。またビタミンB1はアリシンと一緒に摂ると吸収率が良いため、アリシンが多く含まれるにんにくやニラと合わせて摂りましょう。にんにくとニラはそれ自体にもビタミンB群が豊富に含まれています。
- 豚肉、レバー
- 魚介類(かつお、まぐろ、さば、あさり)
- 野菜類(ニラ、にんにく、パプリカ、さつまいも、アボカド)
- 卵
- 玄米、全粒粉
- ごま、豆類、アーモンド など
ビタミンCが多く含まれる食べ物
ビタミンCはコラーゲンの生成に不可欠です。他にも抗酸化作用や免疫力強化、鉄の吸収促進に役立ちます。肌のシミの原因となるメラニン色素の生成を抑える働きもあります。水溶性であり、熱に弱い特徴があります。多く含まれる食品に生食できるものが多いので、できるだけそのまま食べられるものから摂ることが推奨されています。
- 果物(柑橘類、いちご、キウイ、レモン、アセロラ、柿、ゆずなど)
- 野菜類(パプリカ、ブロッコリー、芽キャベツ、菜の花、ゴーヤ)
- 芋類(じゃがいも、さつまいも)
- 海苔 など
・オメガ3脂肪酸
最近良く聞くようになったオメガ3脂肪酸は、皮膚のアレルギー反応を改善させることがわかってきました。皮膚のバリア機能の回復が見込めます。EPAやDHAは体内の炎症を抑える働きがあり、アトピー性皮膚炎によるかゆみや炎症を軽減することが期待できます。
オメガ3脂肪酸が多く含まれる食べ物
- 魚類(いわし、さば、さんま)
- 油類(亜麻仁油、えごま油)
- くるみ
- チアシード など
自己判断での除去食は避けましょう
アレルゲンである食品が症状を悪化させることがありますが、食べたものによってアトピー性皮膚炎が発症するわけではありません。小麦や卵など代表的なアレルギー性のある食品を自己判断で避ける方がおられますが、かえって栄養素の偏りや欠乏を起こし、症状の悪化を招くことがあります。バランスの取れた食事は腸内環境の改善にもつながり、免疫力の増加が期待できます。基本的に食事制限はしないようにしましょう。
アトピー性皮膚炎で控えた方がいい食べ物
唐辛子、わさびなどの香辛料は血管を拡張し、皮膚の炎症を悪化させる可能性があります。同じくカフェインやアルコールも血管拡張作用や皮膚のほてり、発汗を招くためかゆみを悪化させる可能性があります。
ヒスタミンやその類似物質を多く含む食べ物もかゆみを引き起こす可能性があります。ヒスタミンは青魚に多く含まれますが、腐敗した状態では飛躍的に多くなります。魚を食べる際は新鮮なものを選び、保存温度を徹底してきちんと管理し、できるだけ早く調理しましょう。たけのこ、ごぼう、なす、里芋、トマトなどにもヒスタミン様物質が多く含まれるので摂りすぎに気をつけてください。
アトピー性皮膚炎にとって食事療法は大切な治療法のひとつですが、過剰な制限はストレスのもととなり症状を悪化させる可能性もあります。適切なスキンケアをしっかり行い、生活習慣の見直しを行った上で、医師と相談しながら健康的な食生活を心がけましょう。