免疫機構が自分自身(自己)に働いてしまい引き起こされる病気が、自己免疫疾患です。
「自己免疫疾患」とは細菌やウイルス、腫瘍などの自己と異なる異物を排除するための役割を持つ免疫系が本来の働きをせず、自分自身の正常な細胞や組織に対してまで過剰に反応し攻撃を加えてしまうことで異常を来す疾患の総称です。
本来は、自己を守る仕組みになっているはずの免疫の異常により引き起こされる病気で、原因は完全には解明されていません。誰でもかかりうる病気、と言うことも可能な実は身近な病なのです。
では、もし自己免疫疾患にかかってしまったら、どういった治療が行われるのでしょうか。
主な自己免疫疾患
自己免疫疾患には、免疫系の攻撃が全身に及ぶ全身性自己免疫疾患と特定の臓器のみを攻撃する臓器特異的自己免疫疾患の2種類があります。
全身性自己免疫疾患
- 関節リウマチ
- 全身性エリテマトーデス(SLE)
- シェーグレン症候群
- フェルティー症候群
- ベーチェット病
- 若年性突発性関節炎
- 多発性筋炎 など
臓器特異的自己免疫疾患
- 1型糖尿病(膵臓)
- 慢性甲状腺炎・橋本病(甲状腺)
- バセドウ病(甲状腺)
- 自己免疫性肝炎(肝臓)
- 原発性胆汁性胆管炎(胆管)
- 天疱瘡・類天疱瘡(表皮細胞)
- 潰瘍性大腸炎・クローン病(消化管)
- 特発性血小板減少性紫斑病(血小板)
- 自己免疫性肺胞蛋白症(肺) など
自己免疫疾患の症状とは?
どのからだの箇所に症状が出るかで大きく異なる自己免疫疾患の症状ですが、代表される症状は、
- 発熱
- 関節痛
- 湿疹
- リンパ節の腫れ
- 口腔内潰瘍(口内炎)
- 筋力低下
などが主な症状となります。
自己免疫疾患の治療とは?
自己免疫疾患の遺伝の有無や個人の環境、それらの相互作用、症状の個人差の大きさなども、確たる治療法の開発を困難にしています。現在の治療は原因を取り除くのではなく、症状の緩和に主眼が置かれています。
主な治療方法は免疫抑制療法といい、薬物療法が中心となります。
自己免疫疾患の薬物療法とその効果
自己免疫疾患とは、活性化した自己の免疫系が自己の体の組織を攻撃してしまう病気のため、それを抑える治療薬は必然的に自身の免疫力をも抑えてしまうことに注意が必要です。
治療薬には大きく分けて「ステロイド」と「免疫抑制薬」があります。詳しく説明していきます。
ステロイド
ステロイドは自己を攻撃してしまう免疫系や、それによって発生する炎症を抑制することによって治療に役立つと考えられています。
経口ステロイド療法を用いる場合、プレドニゾロンもしくはプレドニンという薬が使われることが多く、初期投与量20〜60mg/日程度で開始し、2〜4週ごとに5〜10mgずつ減量していきます。20mg以下だとさらにゆっくりと減量していきます。連日内服と隔日(1日おき)の内服があり、後者の方が副作用は少ないとされています。
ステロイドパルス療法の場合、プレドニゾロン500〜1000mgの点滴注射を3日間行います。
服用中に注意することは、急に内服を中止しないことです。
ステロイドホルモンは本来体内で作られるもので、2.5〜5mg程度の量が分泌されていますが、それ以上の量を長期に内服した場合、副腎皮質からのステロイドホルモンが分泌されなくなります。
そのため、急に内服をやめると体の中のステロイドホルモンが不足し、倦怠感、吐き気、頭痛、血圧低下などの症状が見られることがあり、これをステロイド離脱症候群といいます。自己判断で急に内服を中止しないようにしてください。
ステロイドの効果
ステロイドは副腎が分泌する人間にとって必須なホルモンで、抗炎症作用をもち、免疫反応を迅速かつ強力に抑える効果があります。
体内に入るとサイトカインという免疫細胞や炎症反応を調節する役割のある免疫細胞から分泌されるタンパク質を制御し、抑制効果を発揮します。現時点でステロイドの速効性、著効性をひとつの薬剤で上回るものは存在しません。
ステロイドの副作用
ステロイドには様々な副作用があり、心配される方も多いと思います。しかし、副作用は全員に認められるものではなく、疾患、薬の量、内服期間などにより様々なので自己判断はせず、主治医と相談するようにしてください。
・感染症リスクの増加
免疫を抑えるため体の抵抗力が低下し、風邪やインフルエンザなどの感染症にかかりやすくなります。投与量が多い間は、感染予防の抗菌剤などを一緒に服用することもあります。日頃は、手洗いうがい、マスク着用、人混みを避けるなどの一般的な注意が必要です。
・糖尿病
糖を合成する働きを高めるため、血糖が上がります。投与量が多いほど血糖は上がるので、特に投与量が多い間は食事療法による予防が大切になります。
・消化性潰瘍(ステロイド潰瘍)
消化管粘膜が弱くなるため、潰瘍ができやすくなります。胃酸分泌を抑制する薬や胃粘膜を保護する薬を予防的に内服することがあります。
・血栓症
出血を止める働きをする血小板の機能が亢進するため、血管の中で血液が固まってしまう血栓症が起こりやすくなります。血液をサラサラにする薬を予防的に内服することがあります。
その他、ステロイド痤瘡(にきび)、緑内障、満月様顔貌(ムーンフェイス)、不眠症、増毛、脱毛、不整脈、生理不順などが見られることがあります。しかしこの症状はいずれもステロイド薬の減量により改善します。
免疫抑制薬
免疫抑制薬は体内で過剰に起こっている異常な免疫反応を抑える薬です。
自己免疫疾患において、ステロイド薬だけでは効果が乏しい場合や副作用により減量や中止しなければならない場合などの補助的選択薬として使用されることが多い薬です。
免疫抑制薬はリンパ球(特にT細胞系)の増殖・活性化を阻害することで過剰な免疫反応を抑制するのですが、ステロイドと同じく一方で免疫抑制に伴って病原体に対する抵抗性も低下してしまいます。そのため感染症の予防も同じく課題となります。グラセプター、プログラフ、シクロスポリン、セルセプトなどが主な薬剤名。となります。
食事の前に内服することや薬を分解する酵素を阻害して血中濃度が上がりすぎてしまうためグレープフルーツジュースが禁忌とされる薬があるなど、医師の指示通りの服用を心がけることが必要です。
免疫抑制薬の効果
ステロイドと同じく、過剰な免疫反応を抑制し攻撃を和らげ、炎症や組織の損傷を軽減する効果があります。関節リウマチの関節痛や腫れ、全身性エリテマトーデスの皮膚症状や臓器障害の緩和、また病気の進行を遅らせ臓器機能の低下を防ぐ効果も期待できます。
免疫抑制薬の副作用
ステロイドと同じく、感染症リスクの増加、糖尿病などが認められます。
また免疫抑制薬特有のものとしては、
- しびれ、けいれん、頭痛、めまいなどの神経系の症状
- 骨髄の機能を抑制するため骨髄で作られる白血球や赤血球、血小板の減少、それに伴う点状出血や青あざ、出血しやすくなる
- 尿量が少なくなる、ほとんど尿が出ない、反対に一時的に尿量が多くなる、発疹、むくみ、体のだるさ
が挙げられます。
いずれも放置せず、主治医や薬剤師などに早い相談をしましょう。
自己免疫疾患と上手に付き合っていくために
自己免疫疾患は原因がはっきりとわかっていないことも多く、完治は難しいと言われています。しかし、実際には適切な治療と生活習慣の見直しによって、日常生活にほぼ支障がない状態を目指すことが可能です。自己判断で薬を減らしたり増やしたりせず、主治医の指示通りに正しく服用しましょう。副作用が出た場合の相談や、バランスの取れた食事や感染症予防などの見直しも大切です。定期的な診察を受けながら元の日常生活を取り戻すために自己免疫疾患と上手く付き合っていきましょう。